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Junko Fukutake Hallへの行き方
岡山市建築ツアーの個別特集第3弾はSANAA設計、2013年竣工のJunko Fukutake Hallです。
妹島和世設計のS-HOUSE、岡田新一設計の岡山総合文化体育館を後にして、バスで岡山市の中心部に戻ってきて歩いて向かいます。
岡山大学は県内にいくつかのキャンパスがあります。
その中でも一番大きいのが津島キャンパス。これは岡山市の北側にあるのですが、今回は別の鹿田キャンパスを目指します。
鹿田キャンパスは岡山駅よりも南に位置し、医学部や歯学部、大学病院などが一体になっているキャンパスです。
そのキャンパスの結構目立つところに見えるのが、Junko Fukutake Hall、通称岡山大学のJホールです。
岡山駅から向かう場合は東口を出てそこから南に徒歩で20分。それかバスかタクシーになります。
こうやって地図で平面プランを見るだけで特殊な形状をしているのが分かりますね。
Junko Fukutake Hallの概要
お察しの通り福武純子氏が関わっているこのホール。福武純子氏、いや、福武哲彦氏を語らずして建設の経緯は語れません。
福武哲彦氏は、福武書店(現ベネッセホールディングス)の創業者です。
岡山県で教師、県職員を経た後、1955年に福武書店を設立し、1963年には通信教育の進研ゼミを始めます。これにより通信添削業界のトップとなるまで業務を拡大しました。
しかし、1986年4月に福武哲彦氏は亡くなってしまいます。息子の福武總一郎氏が意思を継ぎ、「岡山県の教育・文化の進展に役立ちたい」という哲彦氏の思いから、1986年6月に福武教育文化振興財団を設立しました。
福武純子氏は總一郎氏の妹にあたり、建設当時はこの財団の副理事長を務めていました。(2015年の6月から三代目の理事長に就任されましたが、残念なことに2017年2月にお亡くなりになっています。)
その純子氏が岡山大学に寄贈したのがこのJunko Fukutake HallとJunkoFukutake Terraceになります。
実は總一郎氏が岡山大学より前に東京大学へ情報学環・福武ホール(安藤忠雄設計・2008年竣工・グッドデザイン賞)建設のために寄付しています。これはまた別の話ではありますが、教育のために日本で建物を寄付・寄贈出来る福武一族はすごいですね。
建物の構成としては、7枚の屋根が、重なるようになっていて、3つのホールが設けられています。
ホールを見に来たのにホールは使用中でしたので、見たかった部分があまり見れず・・・どうやら人気で予約いっぱいの施設のためいきなり訪れてホール見学は難しいよう。
延床面積も1400平米くらいの非常にコンパクトな建築です。
高さも11mとなっていて、鉄骨の柱+柱の溶接が不要な大きさです。
これらを予備知識に外観から見ていきましょう。
Junko Fukutake Hallの外観
これが北側門からの眺めです。屋根の重ねり方が特徴的です。よく見るとむくりがあります。柔らかい雰囲気を出そうとしたのでしょうか。
別のアングルから。細い柱の上に屋根が乗っているだけのように見えますね。柱のピッチもほぼ等間隔。構造的に必要なところだけに斜材を入れている様子が伺えます。構造設計は佐々木睦郎構造計画研究所。アトリエの有名建築家と組むことの多い構造設計事務所で、個人的には難しい構造計画をクリアに応えているのが好印象の構造設計事務所です。非常に優秀な方しかいないのだろうなと思っています。
一番低くなっているところではこの高さです。何か台を持ってくれば乗れそうな高さですが、岡山大学の方はそんなことしないのでしょう。近づいてみたくなるくらいの低さです。屋根も極力薄くしようとする意図が見えます。
比較的バックの部分です。メインホールの控室になっています。アールの壁が見て伺えます。
屋根を柱が貫いているようなディテールの場所もあります。建具周りが綺麗ですね。方立をなるべく出さないように、ガラスとガラスの取り合う部分が細くなるように納めています。
柱の近くに何かあるのに気付いた方もいるでしょう。実は訪れた日が学園祭のような催し物がある日だったようで、展示が至る所にありました。
土間にはコンクリートを押さえた時の跡が見えます。これも一定の跡が残るように意図的にやっているのでしょう。
軒天を見上げます。木の模様が綺麗ですね。カバザクラでしょうか。柱周りの取り合いはクリアランスが10~15mm以内程度になるように納められています。
展示の様子、そして傘置場?の様子です。
柱足元、そして斜材の取り合う部分の納まりです。なかなか変わった納まりですね。柱の下のコンクリートの中にはベースプレートが埋まっているのかもしれませんがどのような形状なのか、あまり想像がつきません。斜材は剛性を高めるためのものでしょうか。ピン接合ですね。
出入口の建具の納まりです。この天井高に対して、建具枠が横長の比になっているデザイン。この出入口の高さを高くしてしまうと扉が重くなって、それを支持する枠の見付が太くなってしまう恐れがあるので、このように高さが押さえられている出入口になっているのかもしれません。
ガラスの幅がほぼ等間隔なので、建具の必要な幅員・高さを先に決め、それに合わせてガラスの幅を決めている可能性があります。
少し遠目からの外観です。見る角度によって屋根の重なり方が変わって見えるのが面白いです。
ガラスと軒天、柱と軒天が取り合うところが見えます。鉄骨の斜材は柱から持ち出したブラケットにボルト接合。
建築本体とは別棟の倉庫?でしょうか。
外部の土間部分のアップです。鋭角な入隅はクラックが入りやすいですね。
Junko Fukutake Hallの内観・ディテールについて
内部では可動間仕切りによって仕切りが出来るようになっています。
通常、可動間仕切りは上部から吊っている構造のため、そのレール部は鉄骨等を介して構造部材(スラブだったり、梁だったり。)に力を伝達します。写真を見るとそのレールを支持する部分は側面を木で隠しています。レールに囲まれた部分の仕上は天井と木目方向を揃えています。
光の差し込む中にアールの壁で間仕切りされています。この壁と天井部分はクリアランスを見ていますね。壁勝ちにするか、天井勝ちにするかというところですが、天井を勝たせています。天井を勝たせると壁の施工精度が求められる(壁側を施工するときに天井とのクリアランスの幅を揃えるように施工するのが難しい)ので、施工は大変だったと思います。
そして左に見える大きな建具。かなり強烈です。
SD(スチールドア)建具周りの納まりです。ガラス幅に合わせて枠が設置されています。RC造やS造などは下地からSDを固定するためのアンカーを取りますが、このSDは枠をガラス幅に合わせることで固定しています。
用途はホールなので、遮音性が求められます。これが1つ設計のポイントになります。遮音のための建具は隙間を無くすことで音を遮断すること、間仕切り部材を透過する音を少なくすることが考え方の基本です。そのため、ガラスが厚くなったり、扉自体が重くなる傾向にあります。(重い物質の方が音を遮音できる性質がある。)その重い扉を支持するために枠が頑丈である必要があり、当然、その枠もしっかり固定されている必要があります。ガラスだけでこの枠を固定しているので、かなりスッキリ見せることが出来ていると思います。
ガラス方立の上部です。斜めの天井と取り合うので綺麗に作るのが難しそうです。こういうのは予め3Dで検討しないと納めるのが難しいでしょう。重い材料ですし、現場で合わせるという訳にもいかないですね。
入口側を見ます。ちょっとだけここも展示の雰囲気が感じられます。明るい空間です。左奥に見える照明も特徴的です。照明は下から天井を照らすような計画の印象を受けました。
ホール側はゆるやかにカーテンで仕切られていました。
ちょっと難しそうなディテールのアップです。斜めの屋根と天井とガラス方立が取り合っています。ここでの施工誤差は止水にも影響するので、重要な施工ポイントでしょう。
外部からですがホール側を見ます。カーテンで仕切られています。ちょうどこの日はメインのホール側が何やらリハーサルみたいなのをしていたのでうまく写真が撮れず・・・残念でした。
外部の壁面、モルタル左官仕上げです。遠目からは綺麗です!が、絶対にクラックが入るんですよね。目地を入れたくない気持ちもわかります。
このクラックは課題でしょう。ひび割れしないモルタル・・・繊維を混ぜたりなどで抑制されるものはいくつかありますが、どれも根本的な解決にはならず、難しいところ。材料の研究も日進月歩ですので、良いモルタル仕上げが出来る未来を願っています。
可動間仕切りの出入口部分です。奥には変わった家具も見えます。
設備関連です。天井は綺麗に見せたいのか、設備の埋込がほとんどありませんでした。床には空調、換気口やコンセント等が埋め込みされています。
サッシ際の床部分にこのように空調の吹出口が設けてありました。床下チャンバー方式のようです。表層はRCの端部を見切って、メッシュ状の落下防止装置敷きしています。奥のあまり見えないところは(こうして覗かないと見えないので)コンクリートの処理はしていません。
最後に別の角度から外観です。長いカーテンが見えるのが綺麗です。ガラリもごちゃごちゃしないようなデザインになっています。
さいごに
非常に綺麗な建築でした。日帰り弾丸ツアーだったので滞在時間は約15分。
本当はホール内部も見てみたかったのですが、何やら演劇のリハーサル中のようで、断念しました。次回、ちゃんと見れる機会があれば良いなと思います。
それにしても、こういう良建築を見ると勉強になりますし、建築って面白いなという気持ちが湧いてきます。特に鉄骨と建具の納まりは勉強になりました。
鉄骨って露出するところをボルト接合にすると、構造の複雑な部分がむき出しにり、美しくないんですよね。ゴミも溜まりやすいですし、クモの巣が張られているのもよく見かけます。今回の特徴的な細い柱に取り付く斜めのブレース材ですが、極力減らしたかったはず。ですが、仕方なしに何カ所か出てしまったので、なるべく綺麗に納めた、という苦労が窺えます。
それと建具です。大きい建具は重くてヒンジも壊れやすく、調整も難しい。ですが、縦に大きく見せたいところがあり、横方向の線をあまり出したくないようなデザインの方針が明確だったと思います。ガラスに埋め込んだ建具は、なるべく枠を小さく、薄くしたかったはず。照明の配線を仕込むための配管径で見付寸法が決まった可能性もあります。ですが、全体のプロポーションの中で、建具の縦横のスケールは良い印象でした。
いい建築というのは、総合的に優れている建築だと思います。この総合的、という考えの要素はそれはそれは多岐に渡るので簡単に言えないところではありますが・・・この建築は総合的に良いなと思いました。
SANAA設計なので、調べれば色々な情報が出ると思いますが、敢えて見たままの情報から感じ取ったことを書いてみました。岡山に来たら是非とも訪れてみてください。その時は一般の方も入れる催しがあるといいですね。
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