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岡山県庁舎概要
岡山県庁舎(本館1957年竣工)は前川國男(1905-1986)が設計した初期の大作であり、初めて手がけた庁舎建築です。約19,703㎡。
1953年に実施されたコンペで獲得したプロジェクトになります。
今回は岡山建築ツアーの中で、安藤忠雄のおかやま信用金庫内山下スクエアの次に向かいました。
岡山駅からはバスか電気軌道を使って約20分。徒歩だと約2.0kmで25分といったところ。
岡山市内の中心部を流れる旭川の近くに立地し、周辺には岡山県立図書館、岡山城などがある文化的・行政的な中心地にあります。非常に良い立地です。
同じく前川國男設計の議会棟(旧館)は4,383㎡。
他にも1971年の西庁舎、1980年の議会棟新館などいくつかの建物から構成されますが、いずれも前川建築設計事務所が手掛けており、様々な年代の建物が建っている、という意味では前川國男を知る上で珍しい建築群です。東棟は前川の弟子たちによって同じ外観デザインで増築されているのも面白いです。
前川國男といえば、ル・コルビジェ、アントニン・レーモンドの弟子であり、「東京文化会館」で知られる建築家。
他にも全国至る所で美術館などの文化施設を手掛けている建築家です。
実は現在耐震改修が予定されていて、2020年まで設計、2020~23年まで施工の予定となっています。
設計は、あい・丸川設計共同体がプロポーザルで選ばれました。
次点は前川・宮崎設計共同体。この前川は前川國男が設立した前川建築設計事務所のようです。前川建築設計事務所のHPを見ると2008年頃を境にプロジェクトの更新が止まっています(2018年11月現在)が、載っている最新のプロジェクトは前川國男時代の建物の耐震改修ばかりのようです。
岡山県庁舎の外観
道路の対角から見てみます。正面が本庁舎、右側の低層部分が西庁舎です。2階レベルで大きく迫り出しているのが空中回廊。
ちょっと屋上側がごちゃごちゃしているように見えますが、設備改修で追加されたのかな、と予想します。
正面入口を道路を挟んで見たところです。
街路樹越しに見えますが、軒高さのあるピロティ空間が奥に見える中庭までの視線を確保しています。昔は奥に議会棟新館が無かったので、中庭ではなく通路として南側、旭川まで行けたようです。
この時代に開かれた庁舎、というイメージを作り出しているので、当時はかなり先進的な庁舎だったのでしょう。前川自身も当時日本一の模範的な庁舎を目指して取り組んでいたと言っています。
こちら側に飛び出しているコの字型の空中回廊も特徴的です。議会棟とも繋がっているようですが、現在は行けません。
手摺の格子が横長のパターンになっています。これが建築のプロポーション、手摺の高さと支柱のプロポーション、カーテンウォールのプロポーションと合っています。横長の長方形で統一感が出されている、と言えばわかるでしょうか。この手摺の格子のパターンがただの縦ストライプだったら、と考えるとこの格子の与える印象が大きいことが理解できます。
外装はスチールカーテンウォールです。横連窓とカーテンウォールのパネルが特徴的ですね。横連窓はコルビジェの弟子だからでしょうか。コルビジェの近代建築5原則の要素が分かりやすく現れているところが伺えます。
実はこの写真の右側と左側、別棟になっていて、右側が前川の本庁社、左側が弟子たちによる東棟になります。よく見るとExp.J(エキスパンションジョイント)で別棟になっているのが分かります。
パネルのパターンが変わっているところ。ここがちょうど本庁舎と東棟の境です。
また、カーテンウォールには凹凸のあるパネルがついています。板チョコみたいに見えるところです。これは意匠的にも特徴のある外観を作り出していますが、それだけではなく、パネルの強度を出すためにも意味があるものです。
色相もいくつかあり、単一的ではない表情を出しながら、落ち着いたダーク系のトーンでまとめられています。
空中回廊の軒裏を見上げます。竣工から60年間の補修の跡が見えますね。クラックの補修は何度かしているのでしょう。補修跡はもうちょっと目立たないようにエイジング処理した方が良かったですね。
県職員の方で気遣う人がいなかったのか、予算を確保してくれなかったのか、設計を委託しているとしたら設計者がスペックで入れ込まなかったのか・・・。こういうことはよくあることですが、岡山市の中でも良い景観を作り出しているエリアの中心的な建築で、市民の利用者も大勢来る場所なので配慮が欲しかったですね。足場や安全対策に費用の掛かりそうな工事にはなりますが、今回の耐震改修で是非ともスペックインして欲しいところです。
柱は本実型枠。近くで見ると多角形だということが分かりますが遠くからですと丸柱に見えます。建物側は角柱ですが何故違うのか・・・この軒裏を見ると空中回廊の梁の寸法に合わせて経済合理性から丸にしたのかもしれないという仮説が浮かび上がります。この大きさの角柱だと梁と梁の取り合う入隅がうまく納まらないですから。
ピロティ空間です。右側は道路に面する正面、左側が中庭になります。これだけ古い建築ですが、柱に設備の配線が出ていないのが良いです。
西庁舎の一番西側を見ます。1階部分は補修が入っているようですね。雨樋に苦労の跡が見えます。
正面側から中庭に進んだところです。良い雰囲気です。南側の建物の高さがあまり無いので、この中庭の開放性が確保されています。
通り側を見ます。やはり空中回廊がこのエントランス空間のスケールを特徴付けています。これがあることによっていきなり県庁舎へ入るのではなく、人間的なスケールのあいまいな空間を経て、県庁舎へ入ることになり、心理的にも入りやすくする空間になっていると思います。建築家や難しい言葉を使いたい人はこの中間的な空間を「バッファーゾーン」と言ったりしますね。
中庭から西庁舎を見ます。左側に生活彩花の文字が見える通り、店舗も入っていて、ちょっとバックヤードっぽくなっています。床をみると設備工事で掘り起こした跡がありました。
そこから180°反対側を見ます。空中回廊や高木でよい雰囲気が出ています。一段下がっているのもアクセントになっています。
中庭の奥から正面側を見ます。こちらの面の外装もスチールカーテンウォールです。
この抜け感、開かれた庁舎という感じがします。
ディテールなど
先ほどの生活彩花のあるところの下部です。
床の色彩も良い感じですが、レンガの足元の穴が気になります。換気用でしょうか。あまり低いところに建物側へ穴を設けると雨水が入る恐れがあるのですが、詳細は不明です。
中庭から見える南の議会棟側です。ここの階段だけやけに躯体の状態が汚かったりします。きっと放置されていれば他のRC部分もこのようになっていたのでしょうが、これまで見た通り綺麗ですので、ちゃんと維持管理されているのでしょうね。
中庭には地下へ行く階段があります。地下には駐車場があります。この手摺が中々ボリュームがあり、庁舎らしい堅い雰囲気を出しています。高さも抑えられているので、正面側から中庭への視線の確保が意識されていたのかもしれません。
カーテンウォールの下の低層部の外装を見ます。
柱はコンクリート打ちっ放し。横連窓に腰壁はレンガです。柱のエッジが出ていないのが柔らかい雰囲気を出しています。
サッシの上に水切りがついていますが、今ではあまり見られない納まりです。柱の目地に合わせて横のラインを強調したかったのかもしれません。
また水切りの上ですが、鳩が止まるのか、鳩避けの剣山のようなものが取り付けられています。
また、訪れたときは床のタイルの調査をしているような方がいました。結構割れているので今後補修が入るのかもしれませんね。綺麗になってくれたら嬉しい限りです。
以上、外観から細かな意匠的なところまで見所いっぱいの前川建築の初期の大作、岡山県庁舎でした!
え、中はどうなっているのかって。休みの日でしたのでそれはまた訪れる機会があった時に。私も見たかったんですから。
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