岡田新一の設計『岡山市総合文化体育館』

岡山県総合文化体育館 中国地方/Chugoku

岡山市総合文化体育館への行き方

1982年竣工の岡山市総合文化体育館は岡山市の南部にあります。

総合公園図書館も入っています。

岡山駅からバスで25分ほど行ったところにあります。

ちょうど岡山日帰り建築ツアーで行っていたSANAAの妹島和世設計の『S-HOUSE』からの帰り道が近かったので寄ることにしました。

岡山市総合体育館(浦安体育館)の概要

浦安総合公園内にあることから通称「浦安体育館」とも呼ばれていて、収容人数4500~8000人規模を収容出来るイベント会場やライブ会場としても利用されています。

また武道場や弓道場も複合しているのが特徴です。(今回はそこまで見る時間がありませんでした。次回は寄ってみたい。)

敷地面積はなんと18万㎡。

建築面積8,812㎡、延床面積14,935㎡です。

中々大きい体育館です。

 

到着しました。アプローチ空間が結構長いので、道路側、体育館の東側からですとこのように見えます。手前の芝生空間は野球場です。ここから見ると良いプロポーションです。既に良い建築の雰囲気が漂っています。

計画時は1979年の建設省のカルチャーパーク構想の一環として浦安総合公園内に計画されました。

北海道の苫小牧総合体育館(北海道日建設計)や兵庫県の西脇市総合市民センター(EPI/今井孝之)、神奈川県の藤沢市秋葉台文化体育館(槇総合計画事務所/槇文彦)などもそうですね。

早速外回りを見てみましょう。

岡山市総合文化体育館の外観

駐車場側からの外観です。

手前に見えるコンクリートの壁側がサブアリーナ、奥のガラス越しトラス構造が見えるのがメインアリーナです。

パッと見たところコンクリート造に見えますが、メインアリーナ上部は鉄骨造です。メインアリーナはかなりの大空間なので、鉄骨造じゃないとこのスパンを合理的に持たせることが出来なかったのでしょう。

岡田新一は「橋」をイメージしているとのことですが、大きなトラスが橋の構造に似ているように見えるのは気のせいじゃないかもしれません。

1982年竣工なので仕方ない部分はあるのかもしれませんが、コンクリートの壁はかなり汚れています。一応竣工時には防汚型の塗装もしているようです。1982年当時なのでどの程度の性能なのかわかりませんが、現代で言うとクリアのフッ素系でしょうか。塗り替えをしているのかは不明ですが、例えば塗装の効果が20年でダメになったとすると、20年近くの汚れ、ということでしょうか。

これが綺麗に保たれていればかなり好印象だなと思います。

白いところはALCに吹付けタイルのようです。

エントランスへのアプローチです。階段を上って2階にアクセスできます。ここもコンクリートの状態を見るとかなり歴史を感じるアプローチです。

 

1階部分とアリーナの側面を見ます。

特徴的な部分として、梁に沿って樋が露出になっています。

軒下になる部分もコンクリート打ちっ放しですがそこまで汚れていません。やはり直接雨掛かりになるところの汚れが激しいのが良くわかり、汚れないコンクリート打ちっ放し面の考え方の参考になります。

正面入口の左側の外壁、右側のスロープ横の擁壁は塗装し直しされていますね。

それにしても雨掛かりになる側面に目地が入っていません。こういうところに目地を入れないのは正直考えられないですが、意匠的にチャレンジしたかったところなのでしょう。

拡大すると

やはり錆び汁が・・・良い意匠なので放置は心配ですね。

2階のエントランスを見ます。

これは先ほどのアプローチとは反対側の入口です。スロープがあるので、車椅子利用者などはこちらからもアクセスできます。1FLまでも結構高さがあるので、大変かもしれません。

岡山市総合文化体育館の内観

2階レベルのエントランスを入ると正面がガラスで奥まで景色が抜けています。抜けた先も公園なのでこの抜けは非常に良いです。トップライトもあり、かなり明るい空間です。トップライトは鉄骨造ですね。綺麗だと思います。よく見るとスプリンクラーが飛び出しています。

2階レベルの共用部です。設備の納め方が綺麗だなと思います。スプリンクラーの配管や照明など、しっかり意匠的に検討して施工されているのが伺えます。これだけ古いと設備の改修工事とかで、小さな設備専門の施工業者が入ってしまって、意匠など考えず施工することが良くあります。その時に市の営繕担当者が意匠的に見栄えの悪い施工を許してしまうケースも多いのですが、ここを見ると余計な配線などが見えません。しっかりとした設計事務所が入って監理されたのか、市の担当者で優秀な方が見てくださったのか、意匠まで気配りの出来る施工業者が入ったのか、そこまで設備改修がされずにここまで来れたのか。

綺麗に使われていると思います。内部も竣工時は防汚型の塗装がされているようです。

内部の目地の接写です。誘発目地にしっかりひびが入っています。ここまで古いともう少しひびの幅が大きいことが多いと思うのですが、結構幅の細いクラックばかりでした。

1階部分とは吹き抜けにもなっていて1階も明るくなっています。左右にある外灯のようなデザインの照明が良いですね。

それとこの吹き抜けに面した躯体の納まり、これは結構良いですね。この手摺の支柱の部分から吹き抜けに面する梁側面に誘発目地を入れたくなるものですが、一切入れず、ひび割れもありません。

手摺支柱は塩ビ長尺シート側に立てていて、そこから段差を作ってコンクリート打ちっ放し面が始まっています。こういった吹き抜けに面する出隅の納め方は角をスッキリさせてメリハリのあるデザインになるので個人的には好きです。

吹き抜け内の階段です。これはまた中々見ない納まりです。

横の目地が結構深いなぁと思って撮りました。20~25mmくらいあるように見えます。

図書館の入口です。なぜ室内に二重に自動ドアがあるのかよくわかりません。よく見るとシャッターもついているのですよ。管理上、防火上を考慮してもこのような構成になる可能性が思いつきません。

岡山市総合文化体育館のアリーナ空間

メインアリーナの空間。この日は卓球のイベントがあったのでアリーナにはお邪魔できず。

このトラス、70mあるようです。天井高さは21.5m。空調設備のデザインが大胆ですね。左右に見えるノズルみたいなのがそうです。

床材はカバザクラ。

構造や設備部分を緑系統の色でまとめているのも特徴的です。

スタンドから横を見るとメンテ通路に螺旋階段がありました。

スタンドにExp.J(エキスパンションジョイント)がありました。長手方向にトラスが組んであるので、構造上大きく動く可能性があったのかもしれません。

スタンドの空間。もう一段分の階段を隠すようにしたいところですが、幅員や観客席数など何かの関係で出来なかったのでしょうか。

反対側を見ます。よく見るとExp.Jがあるところがずれています。構造計画上はこのExp.Jは成功しているのかもしれません。

上部の黒いのはグラスウールボードです。体育館などの大空間では、吸音をしなければ、音環境が非常に悪くなってしまいますので吸音は必ずどこかで取っています。音が反射したり残響音が長すぎたりするのを防ぐためです。結構な面積で吸音する必要があるのでここで面積を確保しているのでしょう。

サブアリーナです。こちらも鉄骨の構造部材や空調のダクトなど緑系統の色です。

更に上部には黄色のグラスウールボードが見えます。

岡山市総合文化体育館のトイレ

トイレも一応チェックします。

古い建物なので、ライニング上部や壁にテラゾーが使われています。天井はケイカルですね。この年代の天井のケイカルはアスベスト含有がほとんどだと思うので、トイレ大規模改修の際はアスベスト処分が発生するでしょう。

えっ、じゃあトイレ使うのは危ないかと言ったらそんなことはありません。こういった建材のアスベスト処分はレベル3扱い(含有はしているが飛散しない)なので、比較的費用も少なく、安全に除去・処分できます。(レベル1、2は処分方法が大変で費用も掛かる。)

長尺立上げの入り巾木。清掃しやすい間違いないやり方です。

さいごに

岡田新一設計の建築をこうやって見たのは初めてかもしれません。

結構良かったです。

個人的にはコンクリート打ちっ放しの外壁はどうしても汚れたまま、汚い外観で放置されることがほとんどなので、好まないのですが、どこが汚れやすいのかが分かりやすい建築でした。

低層部だけ再塗装されているというのも市の予算上の関係でそのような判断になったのだろうと予測が出来るので、再塗装を考慮して打ちっ放しの箇所を検討する、というのも設計者の視点の1つになるかもしれないと思いました。(と言ってもそんなことやっている建物は無いのかもしれませんが。)

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