鎖で作る緑のブラインド 日建設計/コープ共済プラザ

日建設計/Nikken

山手線の内回り、代々木から原宿に向かう電車の中から見える街並みの中で一際目を引く空気を放つ建築がいくつかあります。

今回はその1つ、赤いCO-OPの文字が目立つ、『コープ共済プラザ』(2015年5月竣工)を見てきました。

低環境負荷と防災性への配慮で評価されている建築ですが、意匠的なところもかなり凝っていますので、そこのところも見て行きましょう。

コープ共済プラザへの行き方

東京メトロ北参道駅から徒歩1分。出口によっては目の前、または建物の真下から出てくることになります。

JRの場合は、代々木駅か原宿駅から徒歩で10分以内に着くことができます。

GAギャラリーがすぐそこなので、建築学生や建築業界人、特に意匠設計者は馴染みのある土地なのではないでしょうか。

目の前に見えるのが目的のコープ共済プラザです。

前面道路の環状5の1号線(明治通り)は道路拡幅が予定されているので、歩道が非常に広く見えます。

もう少し近づいたところ。鎖と緑のファサードが特徴的です。メトロ北参道も近くアクセス良好です。

施設の概要

設計は日建設計、施工はフジタときんでん。

地下2階 地上8階 塔屋1階の延床面積約8700㎡の建築です。

元々はコープの共済連が千葉県浦安市にあり、東日本大震災を受けて不安を解消したビルを作ろう、ということからこのプロジェクトがスタートしたようです。

免震構造に加え、逆梁構造(逆スラブ構造と言う場合もありますが逆梁構造が言い方としてはメジャーの認識です。)とし、スラブ(床の躯体)の上に設備を置いてその上のレベルに床仕上げを持ってきているので、天井内には設備を吊るすことなく、落下する恐れの無いようにしています。更にこのスラブ上の空間は防災備蓄にも使用しているようです。

緑のブラインドとアースカラーの外壁

一番の特徴は、前面道路の明治通りに向けて、鎖で作られたストライプ状の格子に植栽を絡ませている外観です。

この鎖に水を流すことで、植栽を維持するだけでなく、夏場は周囲の温度を下げることに役立っています。鎖に絡まる蔦や蔓は日差しを遮る効果もあり、夏場の冷房負荷の低減に効果が期待されます。

ステンレス製の鎖になっていて、ワイヤーにパイプを通すものや円環の組み合わせなど、意匠的にも数種類の組み合わせで構成しています。パイプや円環は大きさに違いがあり、単調ではないようにしています。この数種類のうちどれに蔦が絡まりやすいのか・・・など実験的な側面もあるかもしれません。

このスラブ躯体の上にあるベランダの植栽が各階のフロアレベルと揃うように埋まっています。

手摺の立ち上がっているところがフロアレベル(内部空間での床レベル)と考えると分かりやすいです。

この鎖を伝う水は、柱の前にある樋から排水しています。写真だと色合わせしているので見え難いかもしれません。

また1階レベルは大部分がピロティ空間。風が通り抜けるようになっていて、奥にも植栽が見えます。これも周囲の温度を下げる効果があります。

ピロティの奥を近くから見るとこんな感じで植栽が見えます。このピロティスペースは災害時の緊急避難場所などを想定し、災害時用のトイレや井戸もあるみたいで、帰宅困難者の居場所となるようです。

鎖を滴り落ちる水は犬走りに落ちて、そこから桝へ落としています。

線路側から見える西側立面の屋上側には太陽光集熱による給湯システムがあります。これにより、施設全体の温水を賄っているようです。

外装:ミニコン木目調打ちっ放しとムラ有りECP塗装

無駄が少ない外装になっています。素材や色合わせが特徴的なのでそこについても見ていきましょう。

正面1階部分の柱です。

道路側はアルミパネル、側面は木目調のコンクリート打ちっ放しです。アルミパネルは縦ストライプとなっていて、正面から見たときの鎖や樋に方向が合わせてあります。コンクリートの打ちっ放しの木目調は、本実型枠ではなく、大判で施工されていました。なかなか見ません。Pコン跡も小さいタイプ、これは日建設計の設計の建物ではよく見かける印象です。そして軒天部分も木目調のコンクリート打ちっ放しですが、こっちは型枠の割付けに合わせて、割毎に色が変わっているように見えます。打設の時からこのようになるように一工夫しているのか、それとも打設後に何か手を加えているのか。

軒天部分です。割付1枚毎に木目調が違いますが、色も変えているように見えますよね。また、水切りがついていません。雨の時に軒天の裏側まで水が流れないように目地を設けて水切りの役割を持たせたりすることが多いのですが、設けられていません。このような色使いだからこそ、設けていないのか、意匠的な理由なのか。

Pコン部分のアップ。この小さいタイプは目立ちにくいですよね。

商品名はミニコンって言うみたいですが、日建設計の山梨智彦氏設計の「桐朋学園大学調布キャンパス1号館」(2014年3月竣工)あたりから使われ始めた印象です。この建築の設計者:羽鳥達也氏も山梨グループだったので納得ですね。その他では、「成城学園 中学校高等学校」2016年でも使われていたと思います。

穴埋めは数mm分、表面から落としています。5mm程度落とすのは一般的です。

主要な外壁はECP(押出成形セメント板)です。これも一般的ではない納まり。ECPは中空になっているので、そこに水が入った場合は中空部分を伝って最下部で排水するようにします。この場合は水抜き穴が設けてあってそこから排水するのですが、見当たりません。下部に水切りもありません。

ECPの仕上げに着目するとムラのある塗装になっています。簡単そうに見えて非常に難しい仕上げです。これはどのように施工したのか。

外壁にECPを取り付けた後に仮設足場がある状態で塗装したのは間違いないと思います。水平に数枚に渡って同じようなムラが見えていますから、スプレー系で足場のレベルが変わるところなどで手が入りにくいところは薄く、それ以外は濃くなっています。

ただし、これだけでは説明できないような一枚一枚毎の模様のレイヤーも重なっているように見えます。隣り合うパネルに連続していないムラがありますからね。

工場で並べて複数枚同時に塗装し、それをシャッフルして現場で取り付けた後に再度塗装でもしたのか・・・と考えると、大幅なコスト増になりますから、現場で何かしらの方法で処理したと考えるのが普通かなと思います。

いずれにせよ、この外観の特徴はこの塗装仕上げであり、試験施工をして品質の基準を決めて取り掛かかった苦労があるんじゃないかと想像出来ます。

こちらのアングルでも分かりやすいですね。縦と横で方向性を持って塗装しています。濃くなっている横ラインが仮設足場の踏板ラインの跡でしょう。

外壁のムラ加減が分かるアップの写真。実際の検査時は仮設足場が掛かっているのでこの距離での検査です。足場をバラすと遠目からの見た目を検査出来るのですが、工程上、バラして検査して指摘があったらまた足場を組む、なんとことはお金と工期に余裕が無いと出来ないので、まずやりません。

出隅部分はLアングルで処理しています。ピロティ空間になると黒色、外周はムラのあるアースカラーのカラースキームです。

軒天との取り合い部分。

ピロティ空間。柱に照明設備が埋め込みになっています。

建具とガラリ。

ルーバーの奥は機械置場です。

室外機が見えます。機械設備に必要な開口率を計算して、それを満たすルーバーの設定をするとこのくらいのピッチになったのだと思います。黒いフレームで下地が組まれています。

出入口部分も同ピッチです。

遠目からの外観。

西側の外観。

遠くから見ても良い色合いです。

免震構造部のディテール

この建物は免震構造なので、地球側と建物側で分かれるところが必ず存在します。その分かれるところを隠したりするExp.J(エキスパンションジョイント)の納め方は免震構造の建物を設計・監理していく上で重要なポイントになります。

車の出口前。ここでは白いコンクリート製のパネルのようなものとその奥にある金物がエキスパンションジョイントになっています。外部空間は水を流すための勾配を取ったり、このように車が通るところは強度のあるものを選んだりします。水平方向で600mm程度は動いても大丈夫なようにすることが多いと思うので、このパネルの下には地球側と建物側は600mmくらいは離れているハズです。

斜めから見るとこんな感じです。ちゃんとパネル下にクリアランスがありました。周囲全体を地球側・建物側と分ける必要があるので、植栽部分もクリアランスとして見ていますね。植栽でクリアランスを隠しつつ、地震時にはこの隙間に植栽が入るような動きを想定した計画になっていますね。

1階レベルは部分的に床を浮かせています。Z方向にもクリアランスを100mmくらい取っていますね。駐車場側の仕上げは洗い出しのようです。

もう少し引いてみたところ。勾配を取りながらも免震を成立させる納まりです。

設備の桝がたくさんあるのでこの下部で建物内への引込等がありそうですね。

手摺部分です。地球側と建物側が違う動きになっても干渉しないようになっています。

この植栽の中に隠れている設備系統は地球側です。

こんなオブジェもありました。鉄骨の積み木・・・積み鉄骨です。

地下鉄側への流入防止のための防水板の納め方

この建物は副都心とも直結になっているので、その境界部分をうまく納めなければなりません。

写真正面に腰あたりの高さまで立ち上がっているSUS製の柱のようなものがわかりますでしょうか。これが防水板の受けになっています。豪雨時に地下鉄側へ雨水が流れないようにするためのものです。必要な時に人力でセットします。

浸水の恐れがあるときは、この仕上げが石になっているところを専用金具で持ち上げて先ほどの柱にもたれかかるようにセットします。ちょうど持ち上げるのに使う丸い金具が埋まっているのが見えます。ここに専用金具を差して右側に持ち上げます。

反対側です。

ゴム系のクッションで水密性を確保している方が水圧を受ける側です。

それにしても出寸法が小さいです。不特定多数の人が行き交う場所なので邪魔にならないようになっていますし目立ちにくい。良いデザインです。

さいごに

完成度の高さを感じました。設計の作り込みもそうですが、細かいところまでチェックされているであろう監理の仕事の良さが伝わってきました。外観だけでもかなり盛り沢山な工夫や見所がある建築ですので、GAギャラリーに用事がある方は要チェックです。

本当は内部も環境的に様々な取り組みがされているので紹介しようと思ったのですが、自分自身が見ていないことにはコメントしにくいなと思い、ここまでにします。

いつか見学の機会があったら良いなと思いつつ。

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