箱根の森に埋まる建築 ポーラ美術館

日建設計/Nikken

箱根と言えば温泉だけでなく美術館も有名なところ。

その中でも一際、建築界隈で名を馳せているのがポーラ美術館です。ポーラというのはあの化粧品のPOLA。会長のコレクションを収蔵しています。

2002年に開館し、2004年に日本建築学会の日本建築学会賞(作品賞)を受賞しています。その他にもBCS賞、グッドデザイン賞など著名な賞を総ナメにしている建築でもあります。

そんなポーラ美術館を旅してきました。

ポーラ美術館へ

場所は強羅駅からバスで15分程度。

森の中にあります。

バス停に到着。床の舗装もそうですが、バス停のデザインもなかなか斬新です。

反対側から見た様子です。バス停から連続するように手摺が延び、この左手に美術館があります。

ガラスの先端を見ると、少し切り落とされているのが分かります。ガラスは鋭角なものだと風圧など強度的に問題があるので、先端が切られているのが通常です。それでもギリギリまで延ばして鋭角に見えるようにしていますね。

入口のサイン。ここを左です。

正面を見ます。高さが無く、森の中に埋まっています。実はこの美術館、地下3階建ての免震構造です。

これにより、ポーラの会長のコレクションの収蔵品を守りつつ、基準の厳しい国立公園内への建設を可能にしています。

奥へ進みます。エントランスエリア。青いガラスが綺麗です。

扉も変わったデザイン。

自動ドアが開くと、彫刻と森が目に飛び込んできます。

ガラスと線の空間

斜めのガラスに水平の屋根のガラス。一見気持ちの良いガラス空間ですが、ガラスをガラスで支えている様なディテールになっているのがわかります。左下からガラスのバットレスをピン接合で支え、上部のガラスとガラスが取り合うところもピン接合です。写真右側に斜材が見えますので、右から左への片持ちだと分かりますが、ガラスで支えないと耐力が持たなかった、そのように見えます。箱根は雪も降るので、積雪荷重を考慮してこの屋根はかなりチャレンジングです。

上部のピン接合部を見ます。天井部分も吊っていますね。

屋根の上を良く見ると、パイプが通っています。これはメンテナンス用で屋根に上った人が安全帯を掛けるためでしょう。

また、夏場は屋根の上を水が流れると聞いています。

館内に模型があったのでこれで全体構成を確認しましょう。

写真右側がエントランス。円形すり鉢状の穴に十字型の建物が埋まっている構成です。

斜面に合わせて屋根の高さも抑えられています。

 

吹抜け空間。B2、B3階を見下ろします。柱が特徴的です。B3階まで光が溢れて明るい空間です。B2階を森側に開くことの出来る特殊な立地、というのもありますが、こんな地下空間なかなか無いんじゃないでしょうか。

明るい空間。斜めのラインで空間を構成しています。

カフェ側を見ます。ほとんど照明が無く、開口部からの自然光で明るい空間になっているのが良くわかります。

地下でこの階高を確保しているため、この明るさを実現出来ていると思います。

 

物販エリア。

カフェの入れ子部分も天井が片持ちになっています。

展示エリアの入口。ガラスへのこだわりがすごいですね。3方の門型もガラスです。

情報コーナー。

線がしっかり通っています。余計な凹凸面が少ないですね。

ガラスとコンクリートと石の空間。

ガラス屋根が森に向かって消失するようなデザイン。

下から見上げると構成している部材の特徴が良くわかります。

柱は床からブラケットを持ち出ししているので、吹き抜け空間に柱を出したかったのでしょう。

鉄とコンクリートが取り合う部分は面落ちさせています。

繊細で洗練されたディテール

Staff Onlyの螺旋階段。綺麗なつくりです。

段板はチェッカープレート。階段と筒状パネルの周囲はクリアランスがあります。

立面も綺麗です。稲妻型のササラもなるべく見付け幅が小さくなるようにしています。

エスカレーター脇の落下防止のガラス。エッジまで存在感がありません。

ロッカー置場。ここも照明は有りますが、点灯させていません。この狭い空間へも自然光を取り込もうとしているのがわかります。

男性トイレを覗いてみましょう。

上質感のある作りです。ここもダウンライトを徹底して無くして自然光を取り込もうとしています。

また、手洗いと便器側を床仕上げ分けています。小便器側のライニングを高い位置まで上げているのも特徴ですね。

洗面台は個別に設けられています。縦に配置された照明は少し違和感が残りますが・・・この年代は照明と鏡がセットになったものは無かったのかもしれません。今ではTOTOやLIXILはそういった製品を出しています。

個室ブースにも縦ラインの照明。

便器の選定もこだわっていますね。小便器も小さい壁掛けでしたが、大便器側も壁掛け。

トイレ奥の開口部を大きく取ることで光を中に入れています。

空調吹き出しはペリメーターゾーンに設けられています。

他のフロアのトイレも見ます。

同じような作りです。自然光が取り入れられなかったので、間接光で明かりを取っています。

消火栓シリーズを見ていきましょう。

まずはエントランス横。色味は周囲に合わせています。消火栓上にパネルを設け、右側の扉と同じ高さにしています。エントランス側からこちらが透けて見えないようにしているのでしょう。

一般壁部分の消火栓。消火栓と消火器の間と同じ幅で周囲も面落ちさせています。

石壁部分の消火栓。

コンクリートとガラスと石の取り合う場所。石の壁とエスカレーターの取り合うところで誘発目地を切っていて、寸法がしっかり合わせられていますね。消火器ボックスは囲うだけのようです。

最上階天井部分の納まり。

ガラス壁の納まり。

支持する下地を持ち出してそこにガラスを挟む納まりです。

精度の出ない納まりのようですので、クリアランスを適切に設けることで成立させています。

エスカレーター裏。

手摺部分。大きな支柱や控えを設けずに成立させています。コの字型だからこそ出来た納まりです。

柱の上部見上げ。

天井見上げ。品質が安定しているPCですね。

展示室側の天井も特徴的です。こちらもPCになっています。

PC間のスリット部分に照明器具を入れています。

床吹き出し空調。

この波打つPCが綺麗でした。品質確保のために試験施工などしていると思います。

 

バックの避難用の階段。落下防止用に内側はメッシュ仕様です。一見普通の鉄骨階段ですが・・・

よく見ると各段にスリットがあります。

そこに光が透過しています。

エスカレーターが取り付くところ。

ここを見ると吹き抜け空間の床スラブの見付け厚は、エスカレーターの最小寸法で決定されているかもしれません。スプリンクラー配管を隠しつつの最小寸法でしょうか。

場所によってはこのような納まりもありましたので、床吹き出し空調の床下チャンバーの寸法でスラブの見付けが決まっている可能性もあります。

すり鉢とコンクリートの外構

地下への埋め方はすり鉢状の躯体によって構成されています。またすり鉢空間の周囲は遊歩道的にぐるっと回ることができます。外壁もよく見るとPCでした。運搬時間の掛かる山の中にコンクリートを運ぶよりも1つの工場で作って持ってくる方が当然品質は良いですからね。

すり鉢はメンテのために行き来することもあります。結構急ですね。

また免震構造のため建物は浮いていますが、開口部のスリットが下まで通っている立面計画になっているのが分かります。見え難いところなので、手を抜く判断も有り得る場所ですが、そうはいかない、という設計者の強い気持ちが伝わってくるようです。

周囲はこのような森の中を散策できます。ちょっと変わった赤褐色の樹皮の樹木が見えるでしょうか。

ヒメシャラという樹木です。この落葉した冬の散策路を美しく彩っていました。

建物は十字の構成です。雨水は中央に集めて樋を周囲に出さないようにしています。勾配はRCの目地を見れば一目瞭然。また外壁は本実型枠のPC。出入口部分はセットバックさせています。

 

他の外壁部分。笠木との取り合いで外壁に汚れがダレている部分が見えます。笠木の素材は石かセメント系か。この納まりは難しいですね。

 

外構納まり。手摺はフレーム以外はワイヤー止めでした。

ワイヤーなので、存在感がありません。結構大きな印象の違いだと思います。

出入口部分はガラス部分と高さを合わせています。

複雑な取り合いが多いので、汚れやすいところが勉強になると思います。

エントランス通路を下から見上げます。左がバス停側。入口側との免震クリアランスはここで取っていました。

美術館内部からもガラス越しに周囲が見えます。

 

バックヤードエリア。庇の持ち出し方も一点から。

免震クリアランス部分の納まりです。手摺が免震部分と非免震部分を跨がないようにしています。

遊歩道です。

雨水枡の付け方が斬新でした。

 

さいごに

森の中にあるので、四季の移ろいも感じれる素晴らしい建築です。

建築だけの紹介でしたが、所蔵している美術作品もここでしか見れないものばかりです。

是非とも箱根旅行の際はポーラ美術館で、自然を感じ、アートを感じて安らぎのひと時をお過ごし下さい。

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